アミューズトラベル万里の長城遭難 〜消費者の責任は〜

 11月3日、アミューズトラベル主催の万里の長城ツアーで3人が遭難死した。このアミューズトラベルは、2009年にも北海道大雪山系のトムラウシ山で大量遭難事故を起こしており、私もトムラウシ大量遭難を考えるを随筆に書いた。この遭難の事故調査結果は公表されているし、事故の状況は「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」山と渓谷社ヤマケイ文庫にも詳しく書かれている。

 私が「トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか」を読んで驚いたのは、遭難時に参加していて生還したツアー客8名のうち、少なくとも3名が事故後もアミューズトラベル社のツアーを利用し続けていることであった。アミューズトラベルを利用し続ける理由として里見氏(仮名)(68歳)は「アミューズ社に対してはなにも思わない。天気がよければ、なにも起こらなかった。だからアミューズ社の責任でもガイドさんの責任でもないと思う。」と言い、清水氏(仮名)(61歳)は、「信頼の置けるガイドだったけど、たまたま多数の悪条件が重なり事故が起きた。そのことについて、素人の私が『ガイドが悪い』『あれが悪い』『これが悪い』と言える立場ではない。それよりも、トラブルを最小限に抑えるには、ツアー客一人ひとりがしっかりしろということ」と言っている。

 私は、いい歳をした里見、清水両名がこの程度の認識しかできないことに驚きを感じる。両名ともトムラウシの事故をたまたまと言っている。この認識はおかしいであろう。アミューズトラベルは、自然の中でも天候条件の厳しい山岳ツアーを企画するのであるから、予想できる最悪の事態に備えるだけの準備をしておく義務がある。これは業務上の常識であろう。そういう意味でこの両名は全く企業の業務上の責任というものが分かっていない。
 次に清水氏の言うツアー客自身がしっかりしろという、ツアー客の自覚の問題であるが、これもピントが外れている。確かにツアー客自身がしっかりすることは必要であるが、ツアー会社が企画について天候も含めた情報を十分に提供し、申込者の装備や経験についてもチェックする義務があると考える。ツアー客の自覚も必要であるが、金目当てにツアー会社が誰でも参加させるようなことがあってはならないだろう。

 今回、万里の長城ツアーに参加した観光客4人のうち、3人はアミューズトラベルのツアーに数十回参加して登山をしていたという。今回の事故ではアミューズトラベルが事前の下見もしていなかったなど杜撰な管理体制が明らかになりつつある。このような大事故を一つのツアー会社が続けて起こすことになった背景には、自分さえ楽しければよいという、甘い中高年消費者の存在が大きく影響していると私は考える。

(2012年11月6日 記)

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